Like a Chocolate Rainy

 

 

 

 

 

 

その日、雨が降った

学校に残る最後の足跡が雨で崩れていく

 

「祐一……泣いてる?」

「誰が泣いてやるもんか。今日は舞と佐祐理さんの幸せな日なんだ」

 

 

 

 

その日、雨が降った

雪の上を鈴の音の余韻のように雨が弾ける

 

「相沢さん……もしかして泣いてるんですか」

「誰が泣いてやるもんか。真琴は最後まで幸せだったと信じたいんだ」

 

 

 

 

その日、雨が降った

飛行機が雨の中を手の届かない所へと飛んでいく

 

「相沢君、アナタ……泣いてるの」

「誰が泣いてやるもんか。栞は必ず帰ってくるんだ」

 

 

 

 

その日、雨が降った

暗い廊下を雨が静かに響き渡る

 

「ねえ、祐一……泣いてるの?」

「誰が泣いてやるもんか。秋子さんはそんな事、絶対に望んじゃいないんだ」

 

 

 

 

その日、雨が降った

 

 

放り投げられた小さな何かを片手でキャッチする。

それは紙包装に包まれたチョコレート。

 

「おいおい、相沢。落ち着かないのは分かるけど、いい加減に落ち着けよ」

 

頬張れば鋭く舌を抉る甘い味

溶けて後に残るのはホロ苦い味

 

「どうよ、人生の味は?」

「お前の体温を舌で感じるなんて最悪だぞ……でも、まぁ、なんだ。食ってみれば意外と悪くない」

「あーっ!? なに、内緒で食べてるのよっ」

「なんだ真琴、食べたいのか? 北川の生暖かい格好つけ風味のチョコだぞ?」

「よくそんな危ない物が食べれますね……」

「おなか壊しても安心。ここは病院だから。いざとなれば入院できる」

「あはは、こんな時にそれは面白くない冗談ですよ、舞」

「入院、甦るあのひと夏の思い出。えぅ……アイスは一日5リットルが限界でした」

「しまった。ついでに、あっちでこの子の胃を精密検査してもらえば良かったわ……」

 

口の中のチョコレートと一緒に雨の足音が会話に溶けていく

 

「祐一! 面会、大丈夫だって!」

「あらあら、病院では静かに。でも今日は仕方ないのかしら」

 

 

 

 

 

「ようやくお目覚めか、この寝ボスケめ。ほら、目覚めの一発からうぐぅって鳴いてみろ」

「うぐぅ……せっかく久しぶりに会えたと思ったら酷いよ、祐一君。こんな酷い感動の再会なんて絶対、ボクが初めてだよ」

 

 

 

雨は止んだ

道行く人達が空を見上げ、傘を畳むかどうか迷っている

 

 

「もしかして祐一君……泣いてる?」

「ばぁ〜っか。誰が泣いてやるものか。こんな天気の良い日に」

 

 

もう雨は止んだのだ

陽が差し込み、最後まで変わらなかった病室を溶かす

袖で目元を拭い、窓を覗く

雲を解いた太陽の下では、もう誰も傘を差していなかった