大作戦決行！優しい言葉で激写姉妹　

　のんびりとした放課後。私は笙子ちゃんと今まで撮り貯めた写真の整理をしていた。
　今日は撮影も一休み。夕日の差す写真部の部室。のんびりと流れる時間。
　たまにはこんな時間も悪くない。そう考えていた私に、笙子ちゃんが声をかけてきた。
「そういえば、蔦子さまは先代の薔薇さまがたに『カメラちゃん』って呼ばれていたんですよね？」
　笙子ちゃんの手元を見と、そこには卒業式の時に撮った山百合会の集合写真。先代の薔薇さまがたの姿は、今やもう懐かしいと感じてしまう。今の薔薇さまがたと比べ、先代の薔薇さまがたとは基本的にフレームを通してのおつきあいだった。
　本当はもっとお話しがしたかった。個人的には江利子さまと。 あの方は、他の方とは変わった視点をお持ちのように見えたから。
　もし、江利子さまが写真を撮るなら、一風変わった風景が焼き付けられるに違いない。
「蔦子さま？」
　笙子ちゃんの声で、我に返り直前に問われていたことを思い出す。
「え？　ああそうね。確かに呼ばれていたみたいね。クリスマスの時からだったと思うけど」
「どう思いました？」
　興味津々という感じで、こちらにくりくりとしたかわいい目を向ける笙子ちゃん。
「どうって……別に。まあ、妥当かなあと」
　まあ、私をあだ名で呼ぶなら一番妥当な線だろう。だから別に何の感慨も浮かばなかった。
「先代の薔薇さまがたにあだ名でよばれていたんですよね？　ちょっとうらやましいです」
　うらやましいかなあ。うらやましいという言葉に首をかしげながら、他に先代薔薇さまからあだ名をもらっている人たちのあだ名を挙げる。
「そう？　じゃあ、笙子ちゃんも『電動ドリル』とか『ハリガネ』とかみたいな感じで呼ばれたい？」
「電動ドリルとハリガネって、なんだか工事現場みたいですね？　そういうのはちょっと……。でも、『カメラちゃん』って、かわいくて蔦子さまらしくていいなあ。わたしも、蔦子さまのことあだ名で呼んでいいですか？」
　あだ名、そんなにいいものかな？　とぼんやりと思いながら、私は笙子ちゃんと話を続ける。
「『カメラちゃん』？　あるいは『カメラさま』？　カメラさまはちょっとかなあ……」
「カメラさまはわたしもちょっとですね、えっと、じゃあ、カメラさまじゃなくて、『盗撮さま』『盗撮ちゃん』で」
「却下」
「じゃあ、『盗撮ガール』？」
「却下」
「えーだめですか？」
「駄目」
「じゃあ、どんなのだったらいいですか？」
「とにかく盗撮は駄目」
　そんなあだ名はいくら笙子ちゃんでもごめんだ。笑いながら言っているので、冗談とわかっているけど、その単語を使うのは冗談でも　避けて欲しいなと思う。駄目といわれるとわかっているのに、正面から堂々という笙子ちゃんは正直なんか小憎らしい。
「それが駄目なんですか？　ひどいです」
「こらっ」
　だからわたしも、半分本気で、半分冗談で、盗撮にこだわる笙子ちゃんの頭に拳固を落とした。
「きゃっ。すみません。冗談です」
　逃げながら、笑いながら、笙子ちゃんはそう答える。
「わかればよろしい」
　まじめくさった顔で、その答えに返す私。お互いに「ぷっ」と笑いそうになるけど、そこは我慢だ。
「じゃあ、どんなのだったらいいですか？」
　改めて、といった感じで、今度は少し真剣な顔をして私の顔をのぞき込む笙子ちゃん。
「そうねえ……マイナスイメージな言葉が入ってなくて、体型に依存しないあだ名がいいわね」
　しばらく考えて、私はそんな風に笙子ちゃんに答えた。こういっておけば、ドリルだのハリガネだのっていうようなあだ名は避けられるだろうし、そういったのを除いて、マイナスイメージの言葉を含まないあだ名であれば、だいたいは許容できるだろう。
「マイナスイメージな言葉が入ってなくて、体型に依存しないあだ名ですか？」
　だから、笙子ちゃんがオウム返しにそう言ってきても、何の疑問も持たなかった。
「ええ、マイナスイメージな言葉が入ってなくて、体型に依存しないあだ名よ」
「マイナスイメージな言葉が入ってなくて、体型に依存しないあだ名ならいいんですね」
「ええ、マイナスイメージな言葉が入ってなくて、体型に依存しないあだ名なら問題ないわ」
　なんかやけにこだわって聞いてくるなあ……。内心そんな風に考えていたら、笙子ちゃんはとてつもない爆弾を私に投下してきた。
「わかりました。じゃあ、『お姉さま』で」
「ちょっ、それは……」
　予想もしない単語が出てきたため、私は二の句が継げなかった。
「マイナスイメージな言葉が入ってなくて、体型に依存しないあだ名ならいいんですよね」
「そ、そうだけど、ちょっとそれは……」
「マイナスイメージな言葉が入ってなくて、体型に依存しないあだ名。『お姉さま』。蔦子さまにもぴったり」
　何とか落ち着きを取り戻し、笙子ちゃんに説得を試みる。確かに、マイナスイメージな言葉が入ってなくて、体型に依存しないあだ名だが、さすがにその言葉は避けて欲しい。
「笙子ちゃん。私は別に笙子ちゃんと姉妹の契りを結んだ訳じゃないわよ」
「ええ、知ってますよ。私と蔦子さまは、残念ながら姉妹じゃありません。蔦子さまが姉妹を作らないというのは、私も十分わかってますから」
「だったら……」
「あだ名です。姉妹の契りは関係ありません。あくまであだ名です」
　きっぱりはっきり。笙子ちゃんはまじめな顔をしてそう答えた。姉妹ではないのが残念という、自分の意見もしっかりと主張して。
「えっと」
「マイナスイメージな言葉が入ってなくて、体型に依存しないあだ名ならいいんですよね。『お姉さま』というあだ名にはマイナスイメージな言葉もないですし、体型に依存していないと思います」
「でも……」
「マイナスイメージな言葉が入ってなくて、体型に依存しないあだ名です。何か問題でも？　お・ね・え・さ・ま？」
「まいった。わたしの負け。でも、それだけは勘弁してくれないかな？」
　私は白旗をあげて笙子ちゃんを拝み倒す。
「いやですっ」
　そんな私に笙子ちゃんは、女の子の私が見とれちゃいそうな笑顔を浮かべてそう言った。

あとがき

このお話なかなか形にならなくて最初に会話部分だけでがちゃSに投稿したのでした。肉付け版ができたら差し替えようかなと思っていたのですが……そうしたら、今までで一番の得票になって、差し替えるのがためらわれる状況に。
会話のみバージョンのとんとんと弾むのが好きな人もいるかもしれないですし。
とりあえず、琴吹的にはこちらの方が完全版になります。

2008/11/09（萌：44 　笑：11 　感：12）