すうすうと寝息が聞こえる。
手はまだ握られたままだ。
私は、空いている手で、ひなたさんの頭をそっと撫でる。
「エミリーちゃん。今日は一緒に寝てくれないかい？」
「エミリーちゃん。手、繋いで寝ていいかい？」
今日のひなたさんは、私に凄く甘えてきた。
ひなたさんは普段はこんな風に甘えない。だから、今日は精神的な体調がよっぽど良くないんだなと思っていた。
先日の選考会にひなたさんは合格できなかった。北海道地域では有名な、撫子組曲という番組の選考会だったそうだ。
ここ２週間、ひなたさんはその選考会に向けて、特訓をしていた。
素人目の私から見ても、ここ最近のひなたさんは以前に比べ格段に良くなったと感じたくらいだ。
ひなたさん言っていた。
「オーディションに合格したら、アイドルになったあたしをばーちゃんたちに見てもらえるんだわ。だからあたし、今回は特に頑張ってるんだ」
それでも、撫子組曲の選考会は通らなかった。
ひなたさんのご家族にその勇姿を見せられなかった。
その悔しさが、悲しさが、ひなたさんを不安定にしているんだと思う。
いままでも、ひなたさんが選考会で落選した事は多々あった。それでも、ひなたさんが私にこんな風に甘えてくることはなかったから。
北海道から上京してきて、独り暮らしをしているひなたさんは、基本しっかりしている。
家事も調理とかもそれなりにてきぱきこなすし、劇場にいるときは、常に、年下の私たちに目をかけてくれている。
ひなたさんの考えとして、年下の子は面倒見てあげなくちゃ。と強く思っていると見ていて感じる。
だから。
今回のことはひなたさんにとって、よっぽどのことだったんだろうと思う。
だから。
そのひなたさんが、年下である私を頼ってくれるのが凄く嬉しかった。
私には、傷ついているひなたさんのそばにいることしかできないのだけれども。
私がそばにいることで、少しでも、ひなたさんの悲しさを和らげることが出来たら。
私がそばにいることで、少しでも、ひなたさんに安らぎを与えることが出来たら。
左手でひなたさんの手を握り、右手でひなたさん頭を撫でながら、私はそんな風に考えていた。
FIN
あとがき
林檎と撫子が共栄作物であることを証明する具体例その５
今書いているおはなしのサイドストーリー的なお話なんですが、そのおはなしがかなりお難産で、ずいぶん寝かしているけどまだ完成できていないです。
早く完成させたいなあ。