「おいしいでしゅ」
「本当に美味しいねぇ」
あたしたちは甘味処で林檎を使った和菓子に舌鼓を打っていた。
「紬さんが来られなかったのが、本当に残念です」
エミリーちゃんのその言葉にあたしは曖昧な笑顔を返す。
エミリーちゃんの言葉に素直に同意できなかったのは、エミリーちゃんは、本当は紬さんと来たかったのではないかと思ってしまったから。
もし、紬さんの都合があったのであれば、エミリーちゃんはあたしを誘ってくれたのだろうか。
劇場の人間模様を見たときに、あたしは誰かの一番ではないなと感じることが良くある。
別に劇場の人たちと仲が悪いわけではないし、仲良くしてもらっているし、助けてもらっていると思ってる。
でも、あたしは、その人にとって一番最初に頭の中に浮かぶ人ではないなと感じている。
たとえば、可奈ちゃん。たとえば、杏奈ちゃん。きっと可奈ちゃんは、何かが起こったときに、志保ちゃんに一番に物事を伝えると思うし、杏奈ちゃんは百合子さんに伝えるだろう。
エミリーちゃんは誰にソレを告げるのだろうか。やっぱり紬さんだろうか？ それとも……。
普段は気にしたことがない些細なことが、なんとなく気になってしまう。
あたしに一番に告げて欲しいと思うのはわがままだろうか？ そんな想いが胸の中でぐるぐるする。
そんなあたしのわがままな想いをエミリーちゃんに知られたくなくて、あたしは、和菓子と一緒に出てきた緑茶をすすり、ふぅーと大きく息を吐きだす。そんな想いを胸にため込みたくなくて。
「……確かに、美味しいものねぇ。このお菓子のキャンペーンは今月いっぱいやってるみたいだから、こんどは紬さんの時間のある時に一緒に来ればいいべさ。美味しいものは何度食べても美味しいでしょや」
「そうですね。後で紬さんと日程合わせてみます！ ひなたさんは何時だったら空いていますか？」
「あたしも呼んでくれるのかい？」
「もちろんです。だって、本当はここに、3人で来たかったのですから！」
その言葉で、あたしの心がほんのりと温かくなる。
少なくても、今日は、紬さんの都合がついたとしても、呼んでくれたのがわかったから。
そして、次回もあたしを呼んでくれるくらいにはエミリーちゃんに好かれてるんだなあと実感できたから。
「ありがとうね。じゃあ、スケジュール確認するね」
そういってあたしはいそいそとスケジュール帳を確認した。
FIN
あとがき
林檎と撫子が共栄作物であることを証明する具体例――その３
BCがでるまでは、ひなたとのカップリングはあるものの、そのお相手にはもっと人気のあるカップリングがあるというのがほとんどだったんですね。
14歳組でも、ひなたはカップリングからあぶれることが多いですし。
そんな思いから書いたお話でした。