「魔法反射（マホカンタ）」

　俺は、師匠の言われるままに呪文を唱えた。師匠とフレイアが闘っている・・・いや、闘っているのは師匠とフレイアではなく、師匠と魔物だと言うことも頭ではわかっていた。そして、俺が手伝わなくては師匠が負けることも・・・魔法使いは、元来肉弾戦には向いていない。そして師匠は、もうかなりのお年をめしている。更にあの武器・・・理力の杖。　そう、それは自らの魔法力を物理的ダメ−ジに変換する道具。つまり、あれで攻撃すればするほど、のちのち大呪文は使えなくなる。　魔法が使えない魔法使いなんてはっきりいってただの人と同じだ。でも・・・でも、俺は動くことができなかった。

　

フレイアが冷て付く波動を俺らに投げかけた。

！　魔法反射（マホカンタ）、防御光膜（フバーハ）等の効果がすべて打ち消された。師匠が呪文を唱えた。

「祈願（パルプンテ）！」

　どこからともなく暖かな光がさし、ここにいるすべてのものを包んだ。

　俺は傷口がふさがっていくのを感じた。

　なんて無茶な事を。祈願呪文（パルプンテ）は大量の魔法力を使い偉大なるものに奇蹟を願う呪文だ。しかし、何がおこるかわからないのだ。今回はたまたまいい結果が出たが、下手をすると自分の命を奪いかねない呪文なのに・・・

「ぐをおおおお！」

　フレイアが、大魔王の影が苦しんでいる。・・・祈願呪文（パルプンテ）によるあの光は大魔王の影に苦しみを与えている。

　

祈願呪文（パルプンテ）−フレイア−光・・・この三つが頭の中でドロドロになり、何かを形づくろうとしている・・・・

「ヨシュアちゃん私を殺して。お願い！　早く時間がない。早くしないとこれに取り込まれてしまう。そうなったら、・・・私を、人間のままで人間のうちに・・・・早く、早く」

「ぬう。さっきの光で目覚めたか。まあいい、どうせこの娘も長くない。ふっ、おまえにできるのか？　この娘を殺すことが」

　・・・！　ドロドロになっていた物が一つの形を形成した。この方法を使えば、もしかしたら上手くいくかもしれない。もちろん上手くいくかはわからない。身を清めてあの呪文を使えば、もしかしたら、もしかしたら大魔王の影だけやっつけられるかも知れない。しかし、上手くいくかはわからない。

　もし、失敗したら・・・・・

「ヨシュアちゃん早く！　私は、ヨシュアのこと・・・ヨシュアちゃんに殺されるなら本望よ」

　良く見ると、フレイアの顔は土気色になってきている。フレイアのその言葉が俺の迷いを断ち切った。

「・・・ごめんフレイア、あの時の約束は守れそうにないや。不甲斐ない俺を許してほしい。・・・ユ−ロパ様、あとのことはお願いします。俺には後始末できないから」

「諦めちゃ駄目！　諦めはこれを成長させるわ！　ヨシュアちゃん、早く、早く」

　フレイアを救えるのはこの方法しか・・・失敗しても、フレイアを苦痛からは開放できるはずだ。

　俺は覚悟を決めて、その方法に賭けることにした。

『ルビス様、ミトラ神よ、フレイアに祝福を』

　俺はそう祈りながら、道具袋から聖水をとりだし、身体にふりかけた。

「さあ二人とも、俺の賭けに付き合ってもらうよ」

「何をするの？」

　二人のフレイアの声が重なった

　俺はフレイアにちかづきギュッと体を抱きしめた。

　やわらかく暖かいはずのフレイアの体はネクロゴンドの雪のように冷たかった。

「俺は、あの頃から君のことが、フレイアのことが好きだった。俺は君のことを忘れない。だから、俺のことも忘れないでくれ・・・あの鈴。大事にしてくれよ・・・君にルビス様とミトラ神の御加護がありますように」

　俺はフレイアと軽く唇を合わせるとニッコリと微笑んだ。そして・・・

「いかん！　ヨシュアやめろ！」

「ま、まさか！？」

　そして、俺は呪文を唱えた。

「自己犠牲（メガンテ）」　

　辺りは強烈な光に包まれた。